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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)154号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 審決がその理由の要点1ないし3で認定した事実及び本願発明が原告の主張する(イ)(ロ)(ハ)の作用効果を有すること、(イ)の作用効果は、本願発明の構成(a)ないし(f)から生ずるものであるところ、これに対応する構成(a´)ないし(f´)を有する第一引用例のものも奏する作用効果であり、(ロ)の作用効果は、本願発明の構成(g)(h)から生ずるものであるところ、これに対応する構成(g´)(h´)を有する第二、第三引用例のものも奏する作用効果であることは、当事者間に争いがない。

2 そこで、右事実を前提に、(ハ)の作用効果について考察する。

成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、甲第四ないし第七号証によれば、本願明細書中には、本願発明の作用効果につき次に(A)(B)(C)として示す記載があること、(A)(B)は同一段落中に(A)に続き(B)が記載されており、この段落に続く段落として(C)<1><2><3>が同一段落内に続いて記載されていることが認められる。

(A) 「この発明は、ブーム(20)の第一端部をフレーム(14)の第一軸芯のまわりに回動可能に連結し、ステツキ(26)の第一端部をブーム(20)の第二端部に第一軸芯と実質上平行の第二軸芯のまわりに回動可能に連結し、リンク組立体(46)の第一端部をバケツト(36)に回動可能に連結する。そして、バケツトジヤツキ(40)の第一および第二端部をブーム(20)とリンク組立体(46)の第二端部に回動可能に連結し、バケツトジヤツキ(40)、ステツキ(26)およびブーム(20)の一部によつて四辺形リンク機構を形成したから、クローデイングジヤツキ(30)によつてステツキ(26)とブーム(20)を相対的に回動させ、バケツト(36)を押し出すときバケツト(36)をあらかじめ選定された実質上所定のレベルに維持することができる。したがつて、第1図に示されているように、バケツト(36)を水平並進移動させることができ、円滑に掘削することができる。」(甲第七号証補正の内容一頁八行ないし二頁五行、別紙第一図面参照)

(B) 「さらに、この発明は、マスターシリンダ(56)の両端部をフレーム(14)とブーム(20)に回動可能に連結し、マスターシリンダ(56)とバケツトジヤツキ(40)間に加圧流体を制御可能に流通させたから、リフトジヤツキ(24)によつてブーム(20)を垂直移動させ、バケツト(36)を持ち上げるときバケツトジヤツキ(40)をマスターシリンダ(56)に連動させることができる。この結果、バケツト(36)をあらかじめ選定された方向位置、すなわち第2図に示されている方向位置に維持することができる。」(同二頁五ないし一六行、別紙第一図面参照)

(C)<1> 「従来、バケツト(36)を押し出すときバケツト(36)をあらかじめ選定された実質上所定のレベルを維持し、バケツト(36)を持ち上げるときバケツト(36)をあらかじめ選定された方向位置に維持するには、それぞれクローデイングジヤツキ(30)およびリフトジヤツキ(24)を駆動する他に、作業者がバケツトジヤツキ(40)を操作する必要があり、その操作は容易でなかつた。バケツト(36)を押し出すとき、円滑に掘削するにはバケツト(36)を所定のレベルに維持することが肝要である。」(同二頁一七行ないし三頁七行)

<2> 「バケツト(36)を持ち上げるとき、バケツト(36)があらかじめ選定された方向位置に維持されず、傾むくと、バケツト(36)内の掘削された土砂がバケツト(36)からこぼれるという問題がある。」(同三頁七ないし一一行)

<3> 「この発明は、種々の研究および検討を繰り返した結果なされたもので、バケツトジヤツキ(40)、ブーム(20)、バケツト(36)のリンク組立体(46)、ステツキ(26)およびマスターシリンダ(56)を互いに運動学的関係を持たせて組合せることによつて、特別に作業者がバケツトジヤツキ(40)を操作しなくても前述した二つの作業条件、すなわちバケツト(36)を押し出すときバケツト(36)をあらかじめ選定された実質上所定のレベルに維持し、バケツト(36)を持ち上げるときバケツト(36)をあらかじめ選定された方向位置に制御可能に維持するという要件が同時にみたされるようにし、この種の掘削作業にとつて画期的な、いわば革命的な作用効果を得ることに成功したものである。」(同三頁一一行ないし四頁五行)

前記1の事実に照らし右の記載内容を見れば、右(A)の記載が本願発明の構成(a)ないし(f)により形成される四辺形リンク機構により、バケツト(36)を押し出すクローデイング動作時に、バケツト(36)を実質上所定レベルに維持して水平並進移動させることができ円滑に掘削することができるという前記(イ)の作用効果を説明した記載であり、右(B)の記載がマスターシリンダ(56)とバケツトジヤツキ(40)間に加圧流体を制御可能に流通させる本願発明の構成(g)(h)により、バケツト(36)を持ち上げるローデイング動作時に、バケツト(36)を土砂がこぼれないようにあらかじめ選定された方向位置に維持するという前記(ロ)の作用効果を説明した記載であることが明らかである。

そして、右(A)(B)に続く段落として記載されている(C)の記載内容を見れば、(C)の記載は、その<1>によりクローデイング動作時に(イ)の作用効果を有することが肝要であることを説明し、その<2>によりローデイング動作時に(ロ)の作用効果がなければ問題であるとし、その<3>において本願発明は(イ)(ロ)の効果がともに奏されることを説明しているものであると認められる。すなわち、(ハ)の作用効果は、(イ)(ロ)の作用効果を一台の液圧式エキスカベーターが奏することをいうにすぎないことが明らかである。

この事実と右1の事実によれば、本願発明の(ハ)の作用効果は、第一引用例のものに第二、第三引用例のものを組合せることにより当然得られる作用効果であつて、両者の作用効果の総和以上のものではなく、これを特段の作用効果と見ることはできないといわなければならない。

そして、成立に争いのない甲第八号証によれば、第一引用例には、掘削機をシヨベルローダとして使用する場合に、平行四辺形リンク機構を別用してバケツトを掘削作業に適する所定レベルに維持し水平並進移動させてクローデイング動作を行い、次いでその図面(別紙第二図面)第二図の鎖線に示すようにローデイング動作を行う際バケツトから土砂がこぼれないようにバケツトの位置を修正し所定方向位置に維持することが記載されていることが認められるから、このローデイング動作を行う際バケツトから土砂がこぼれないようにバケツトの位置を修正し所定方向位置に維持するための機構として、第二、第三引用例に示されている公知の(g´)(h´)の構成を採用することは当業者が容易になしうることといわなければならず、これを困難とする特段の理由は本件全証拠によつても認めることはできない。

原告が請求の原因四2で主張するところは右の説示に照らし採用することができない。

3 次に、原告主張の(ニ)の作用効果について考察する。

前示本願明細書の作用効果に関する(A)(B)(C)の記載によれば、クローデイング動作中のバケツトの位置を所定のレベルに維持するための機構は四辺形リンク機構であると説明されており、これにマスターシリンダ(56)とバケツトジヤツキ(40)間に加圧流体を制御可能に流通させる機構が関与していることについては何らの記載もないことが明らかである。そして、前掲甲第二号証の二、甲第五号証によれば、本願明細書中の本願発明の構成を有するエキスカベータの運転要領について説明する箇所において、クローデイング動作の際バケツトが本願明細書図面(別紙第一図面)第一図の実線の位置から鎖線の位置まで前進させられるとき、「バケツト制御ジヤツキ(40)は実質上、固定リンクとして作用し、これによつてバケツトが支軸(38)を中心にして時計方向に回転して、バケツトが実質的に一定レベルに保たれるようになる。」(甲第二号証一七頁四ないし八行)と説明していることが認められる。右の説明と図面の記載によれば、この場合ブーム(20)は下げられており、したがつて、これに伴いマスターシリンダ(56)は収縮されているにかかわらず、バケツトジヤツキ(40)は固定リンクとして作用すること、すなわちマスターシリンダ(56)の収縮に基づくバケツトジヤツキ(40)の伸長は四辺形リンク機構の作用に影響を及ぼさない程度のものと認識されていたことが認められる。また、右の記載に続く説明によれば、レベルカツト作業を継続する場合にもブームは上下されるが、「ブームが下げられるときには、マスターシリンダー(56)も収縮され、これによつてマスターシリンダーの上端部からの流体がバケツト制御ジヤツキの上端部に送給されて、それらがいく分か伸長されるようになる…。しかしながら、バケツトジヤツキ(40)、ステツク(26)、リンク組立体(46)および支軸(28)と(42)間のブーム部分によつて形成されている実質的な平行四辺形状のリンク装置は上述のような伸長動作には関係なく、バケツトを一定レベルの位置に保つている。」(甲第二号証の二、一七頁一二行ないし一八頁三行、甲第五号証補正の内容(5))と説明し、この場合もマスタシリンダ(56)の収縮に基づくバケツトジヤツキ(40)の伸長は四辺形リンク機構のバケツト位置維持の作用に実質的な影響を及ぼさない程度のものと認識されていたことが認められる。

右事実によれば、本願発明においては、クローデイング動作時にバケツトを所定位置に維持する作用効果は四辺形リンク機構のみにより、また、ローデイング動作時バケツトを所定位置に維持する作用効果はマスタシリンダ(56)とバケツトジヤツキ(40)間に加圧流体を制御可能に流通させる構成により、それぞれ達成すべきものとして予定されており、これに欠くことのできない構成として構成(a)ないし(f)、(g)(h)を採用したものであることが明らかであるといわなければならない。すなわち、本願発明の構成(h)の「前記ブームが垂直移動するとき前記バケツトをあらかじめ選定された方向位置に制御可能に維持する」とは、ローデイング動作時におけるブームの垂直移動に伴いバケツトを土砂がこぼれない方向位置に維持するに適するようマスターシリンダとバケツトジヤツキの伸長収縮の連動関係を設定することをいい、原告が(ニ)の作用効果として主張するようにクローデイング動作時における四辺形リンク機構によるバケツトの方向位置維持の補償作用を行うに適するようマスターシリンダとバケツトジヤツキの伸長収縮の連動関係を設定することまでをその要件としていないといわなければならない。また、仮に、前者の連動関係を設定すれば当然に後者の連動関係が得られるものとすれば、(ニ)の作用効果は第一引用例のものと第二、第三引用例のものを組合せることにより当然得られる作用効果の域を出ないものであつて、これを格段の作用効果ということはできない。

したがつて、本願発明が(ニ)の作用効果を有しこれが特段のものであることを前提に審決の認定判断を論難する原告の主張は、その余の点を考察するまでもなく失当であり、採用できない。

4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当らない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

フレームを有するエキスカベータのためのバケツト制御組立体であつて、

第一および第二端部を有し、その第一端部が前記フレームに第一軸芯のまわりに回動可能に連結されているブームと、(以下、「構成(a)」という。)第一および第二端部を有し、その第一端部が前記ブームの第二端部に前記第一軸芯と実質上平行の第二軸芯のまわりに回動可能に連結されているステツキと、(以下、「構成(b)」という。)前記ステツキの第二端部に回動可能に連結されているバケツトと、(以下、「構成(c)」という。)第一および第二端部を有し、その第一端部が前記バケツトに回動可能に連結されているリンク組立体と、(以下、「構成(d)」という。)第一および第二端部を有し、その第一端部が前記ブームに回動可能に連結され、第二端部が前記リンク組立体の第二端部に回動可能に連結されている.バケツトジヤツキを備え、(以下、「構成(e)」という。)前記バケツトジヤツキ、ステツキおよび前記ブームの一部は押出し作業時に前記ステツキが移動するとき前記バケツトにあらかじめ選定された実質上所定のレベルに維持するに適した長さの四辺形リンク機構を形成し、(以下、「構成(f)」という。)さらに、第一および第二端部を有し、その第一端部が前記フレームに回動可能に連結され、第二端部が前記ブームに回動可能に連結されているマスターシリンダと、(以下、「構成(g)」という。)

前記ブームの回動に応答して前記マスターシリンダとバケツトジヤツキ間に加圧流体を制御可能に流通させ、前記ブームが垂直移動するとき前記バケツトをあらかじめ選定された方向位置に制御可能に維持する手段と(以下、「構成(h)」という。)

を備えたことを特徴とする.バケツト制御組立体。

〔編註その二〕 原告の主張する本願発明の作用効果は左のとおりである。

(イ) バケツトジヤツキ(40)、ステツキ(26)及びブーム(20)の一部を含めて四辺形リンク機構を形成したので、クローデイングジヤツキ(30)とステツキ(26)でバケツト(36)を押し出すときバケツト(36)を実質上所定レベルに位置し、水平並進移動させることができ、円滑に掘削することができる(甲第七号証二頁補正の内容(2))。

(ロ) マスターシリンダ(56)の両端部をフレーム(14)とブーム(20)に回動可能に連結し、マスターシリンダ(56)とバケツトジヤツキ(40)間に加圧流体を制御可能に流通させたことにより、リフトジヤツキ(24)とブーム(20)でバケツト(36)を持ち上げるときバケツト(36)を本願明細書図面(別紙第一図面)第二図の方向位置に維持することができ、この間バケツト(36)は傾かず、掘削された土砂がこぼれない(前同補正の内容(2))。

(ハ) (イ)及び(ロ)の組合せにより、バケツト(36)の押し出し及び持ち上げについて二つの種類の作業要件を同時に満たすことができる。そして、いずれかの作業条件においても作業者が特別にバケツトジヤツキ(40)を操作する必要がない(前同補正の内容(2))。

(ニ) バケツト(36)を押し出すとき、四辺形リンク機構だけでなく、マスターシリンダ(56)とバケツトシリンダ(40)間の連通構成も(イ)で述べたバケツト(36)の水平並進移動に関与する。すなわち、バケツト(36)を本願明細書図面(別紙第一図面)第一図の実線位置から鎖線位置に押し出すとき最初はステツキ(26)が垂直になるまでブーム(20)が上昇する。したがつて、マスターシリンダ(56)が伸び、バケツトジヤツキ(40)が縮む。これによつてバケツト(36)を傾けることなく水平移動させることができる。その後、ステツキ(26)が傾斜し、ブーム(20)が下降する。したがつて、マスターシリンダ(56)が縮み、バケツトジヤツキ(40)が伸び、この間においてもバケツト(36)は傾くことなく水平並進移動を継続することができる(甲第二号証の二、一七頁一二行ないし一八頁三行)。

〔編証その三〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙 第一図面 本願明細書図面

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